コラム

「併用できる」って知ってた?相続時精算課税×暦年課税の賢い組み合わせ

こんにちは!
大阪の税理士 グロースリンク税理士法人大阪オフィスです。

「贈与はとりあえず年110万円で…」
面談でよく出るフレーズです。
ただ、とりあえず「110万円で」と安易に贈与を続けていると、相続のタイミングによっては持ち戻し(生前贈与加算)の対象となり、結果として「思ったほど相続税が減らなかった」「贈与の効果が見えにくかった」といったことも起こり得ます。

そこで私がよくお伝えするのが、「暦年課税制度と相続時精算課税制度の併用も選択肢に入れませんか?」という提案です。

実はここを押さえるだけで、相続対策の設計が一気に現実的になります。
ここからは、「暦年贈与か相続時精算課税の併用」を考えるうえで外せないポイントを順番に整理します。

併用の基本ルール:二択ではなく“組み合わせ”で考える

まず前提として、相続時精算課税は「贈与者(例:父)ごと」に選ぶ制度です。
いったん父からの贈与で相続時精算課税を選ぶと、以後、父からの贈与は原則すべて相続時精算課税として扱われます。
そのため、「今年は暦年課税で、来年は相続時精算課税」といったように、父からの贈与方法を行き来することはできません。

一方で“併用”というのは、制度を混ぜるというより贈与のルート(誰から誰へ)を組み替える発想です。
たとえば、

ポイントは「制度」ではなく、誰から誰へという贈与ルートを並べて、家族全体で“どう動かすかという視点で考えることです。
これができると、同じ金額でも、ムダなく目的に沿った動かし方がしやすくなるのが併用の強さです。

父も母も“相続時精算課税”は使える。ただし基礎控除110万円は「按分」

2024年以後、相続時精算課税には基礎控除110万円が新設されました。
ここで誤解が多いのが、「父も母も相続時精算課税なら、110万円×2=合計220万円が毎年非課税?」という点です。

実務上は、次のルールで整理されます。

相続時精算課税の「110万円」と「2,500万円」整理 2024年以後

  • 基礎控除 110万円 は、“贈与者ごと”ではなく 受贈者(もらう人)ごとに年110万円
  • 同一年に父・母など 2人以上 から相続時精算課税で贈与を受けたときは、基礎控除110万円を 贈与額に応じて分けて 適用
  • 特別控除 2,500万円 は、“贈与者ごと”に 累計 で控除(父枠母枠は別管理)

つまり、父母とも相続時精算課税を使う設計はできますが、「基礎控除110万円は合計で1枠」
ここを知らないと、試算がズレて「予想外の贈与税が出た」が起きることとなります。

そして、この按分の話の次にこそ、併用の“本当のメリット”が出てきます。

併用する最大のメリット:相続時までに「どれだけ総財産を動かせるか」

相続税対策の本質は、相続税対策は相続のときに残る財産をどれだけ減らせるかが鍵になります。
その点、相続時精算課税制度と暦年課税制度の併用の最大メリットは、家族内で贈与の役割分担をしながら、相続時までに動かせる金額(スピード)を上げやすいことにあります。

たとえば、父から110万円、母から110万円、合計220万円を毎年贈与できれば、長期で見たときに相続時の保有財産を圧縮でき、納税負担の軽減につながりますよね。

ただし、暦年課税だけで進める場合は注意が必要です。
暦年課税は、相続が近い時期に行った分が相続税の計算に加算(持ち戻し)される可能性があります。
「相続が近い局面」では、220万円贈与をしても“すぐに相続税が軽くなる”とは限らないのです。

さらに、暦年課税の基礎控除110万円は“受贈者ごとに年110万円”なので、同じ年に同じ人が受け取った贈与が110万円を超えると、その超えた部分には贈与税がかかります。
ここで登場するのが、「相続時精算課税と暦年課税の併用」です。
「相続時精算課税か、暦年課税か」の二択にしないことで、相続が近い局面でも効かせやすい贈与と、長期で効いてくる贈与を同時に走らせることができます。

併用のメリットは、次の3点に集約できます。

【1】.相続が近い場面でも“動かせる枠”を確保しやすい

暦年贈与は相続が近いと加算の影響を受けやすい一方で、相続時精算課税には年110万円の基礎控除があり、この範囲は相続財産への加算対象になりません。
つまり「相続が近いから贈与は意味がない」と決めつけず、毎年の“確実に効く部分”を確保しやすいのが強みです。

【2】.「今やる贈与」と「続ける贈与」を並走できる

たとえば、父は健康面で先行きが読みづらい状況のため、相続時精算課税の枠を活用して相続に持ち戻されにくい範囲(年110万円)の贈与を進め、母は比較的お元気で時間を味方につけやすいので、暦年贈与で毎年の積み上げ(年110万円)を担当するという役割分担も考えられます。
こうすることで家族全体で見たときに、相続までの時間に応じて「攻め方」を分けられます。

なお暦年贈与は、相続開始前の一定期間(将来的に最長7年)に行った贈与が相続税の計算に加算(持ち戻し)される可能性があります。
それでも、“相続が近いかどうか”は後から分かることが多いので、動けるうちに動ける範囲で少額から積み上げておく、という考え方です。

【3】.値上がりが見込まれる資産ほど、早めに動かしやすい

現金だけでなく、将来値上がりしそうな資産(不動産や自社株など)を早めに移しておくと、値上がり分を次世代に移せる可能性があります。
相続時精算課税には、まとまった贈与でも特別控除(累計2,500万円)の範囲内であれば、贈与時点では贈与税がかからないという側面があります。
ただし、その代わりに、贈与した財産は相続のときに贈与時の価額で相続財産に加算(持ち戻し)して精算する仕組みです。

だからこそ、相続時精算課税制度で将来的に値上がりが見込まれる資産を早めに移すことで、値上がり分を次世代へ移しやすくするための制度として使うと相性が良い、という考え方になります。

その意味で、相続時精算課税をスポット的に組み込み、暦年贈与で“継続的に”圧縮していくのも、ひとつの手段だと言えるでしょう。

まとめ

併用の最大メリットは、相続時までに“動かせる金額”を家族単位で増やせることです。
相続時精算課税と暦年贈与の併用で父母から合計220万円を継続する設計は、総財産を圧縮しやすい王道の一つです(ただし7年加算の射程は意識)。
一方、父母とも精算課税を使う設計も可能ですが、基礎控除110万円は按分、かつ精算課税の性質(相続時に合算して精算)を前提に、目的を「資産移転・値上がり対策・納税資金」に置くと整理しやすいです。

併用は効果が出やすい一方で、前提条件や手続きの整理が欠かせません。
ご家庭に合う形は人それぞれなので、早めに税理士と一緒に試算しながら設計しておくと安心です。

相続や生前対策でお悩みの際は、ぜひグロースリンク税理士法人へご相談ください!

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このコラムのまとめ

  • 併用の最大メリットは、相続時までに動かせる総額が増え、総財産の圧縮に繋げやすい点(暦年なら父母合計220万円など)。
  • 相続時精算課税は父母とも使えるが、基礎控除110万円は受贈者1枠で複数贈与者なら按分。
  • 暦年課税は7年加算を意識しつつ、早めの設計と試算が重要。