コラム

不動産の売却と相続、どちらを先に? 「譲渡所得」と「相続税」の賢い優先順位

こんにちは!
大阪の税理士 グロースリンク税理士法人大阪オフィスです。

「親が残した実家を売却したいけれど、売却か相続の手続きとどちらを先に進めるべき?」
この疑問は、多くのご家族が直面する、非常に現実的なお悩みです。

不動産を売却すれば「譲渡所得税」がかかり、相続すれば「相続税」がかかる、どちらの税金をどのようなタイミングで、どうすれば最小限に抑えられるのか。
その税務の優先順位と判断基準を知っているかどうかで、手取り額に数百万円以上の差が出ることもあります。

今回は、複雑に絡み合う不動産の売却(譲渡所得)と相続(相続税)の税務上の関係を、わかりやすく解説します。

譲渡所得税と相続税:二つの税金の基本と不動産売却のタイミング

不動産を売却して利益が出た場合にかかるのが「譲渡所得税」です。
この税金は、売却価格から「取得費(買ったときの費用)」と「譲渡費用(売ったときの費用)」を引いた利益(譲渡所得)に対して課税されます。

不動産の譲渡所得の計算式

譲渡所得(課税対象) = 売却価格 − (取得費 + 譲渡費用)

税率(所得税+住民税)

区分 所有期間 税率
長期譲渡所得 5年超 20%
短期譲渡所得 5年以下 39%

※目安。特例の適用・減価償却等により変動します。

一方、亡くなった方(被相続人)から財産を引き継いだ際にかかるのが「相続税」です。
不動産は、相続税法に基づき国税庁が定める「財産評価基本通達」に則って評価されます。
これは一般に考えられる売買の「時価」とは異なり、土地は路線価や倍率方式、建物は固定資産税評価額を基に計算された相続税評価額で財産に計上されます。
この評価額は、多くの場合、実勢価格(時価)よりも低く算定されます。

「相続後の売却」で適用可能な二大特例

多くのケースで税負担を軽減できる可能性があるのは、「相続発生後に不動産を売却する」という選択です。
この戦略が有利となる根拠として、以下の二つの重要な特例が挙げられます。

1. 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(二重課税の調整)

相続または遺贈により取得した土地、建物、株式などを、相続開始から3年10ヶ月以内に売却した場合、支払った相続税のうち一定額を、売却した資産の取得費に加算できる特例です。

効果

譲渡所得の計算において取得費が増えるため、譲渡所得(利益)が圧縮され、結果として譲渡所得税が軽減されます。 この特例は、特に不動産の取得費が不明な場合や、購入時より大幅に価値が上がっている場合に非常に有効です。

2. 空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除(2025年版)

相続した実家(空き家)を売却する場合に、一定要件を満たせば譲渡所得から最大3,000万円が控除できる特例です。

【主な適用要件】

  • 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること。
  • 相続の直前まで被相続人以外に住んでいた人がいなかったこと。
  • 売却代金が1億円以下であること。
  • 期限: 相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却し、かつ、その特例の適用を受けることが2027年12月31日までに完了していること(2025年時点)。

これら二つの特例の適用を考えると、相続が確定し、相続税を申告・納税した後で売却する方が、税務上有利になるケースが多いのです。

賢い税務戦略のためのフローチャートと注意点

前項で解説した特例を最大限に活用し、税負担を最適化するためには、相続手続きと売却手続きの順序を間違えないことが非常に重要です。
相続が発生した後の具体的な行動と、相続と売却の最適な順序を判断するためのフローは以下の通りです。

  1. 相続の発生と遺言書の確認: 最初に遺言の有無を確認し、相続人を確定させます。
  2. 相続財産の評価と相続税申告: 不動産を含むすべての財産を評価し、10ヶ月以内に相続税の申告・納税を完了させます。この際、「小規模宅地等の特例」などの適用も検討します。
  3. 売却の検討と特例の適用判断: 相続税の申告が終わったら、すぐに売却活動に入ります。このタイミングであれば、前述の「相続税の取得費加算の特例」が適用できます。
  4. 売却の実行: 売却代金を受け取り、翌年に「譲渡所得税の申告」を行います。この申告で「取得費加算の特例」や「3,000万円特別控除」を適用します。
「売却」を先に進めるときの注意点
相続前や遺産分割前に売却すると、特例が使えなくなる、または手続きが複雑化する恐れがあります。
特に分割協議が未了のままの売却は、後日のトラブルにつながりやすい点に注意してください。
売却の判断は必ず相続の専門家に相談し、税額のシミュレーションを行ったうえで進めましょう。

まとめ:あなたの手取り額を守るために

「譲渡所得」と「相続税」、どちらが優先という問いの答えは、多くの場合、「まず相続を確定し、相続税を納めた上で、計画的に売却を進める」が、税負担を最小化するための最善策です。
特に「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」は、相続税を支払った人だけが使える強力な税額軽減措置です。

大阪梅田 相続 税理士で専門家をお探しの際は、ぜひグロースリンク税理士法人へご相談ください。

このコラムのまとめ

  • 不動産は「相続後の売却」が基本。手取りを最大化するため、順序を間違えないことが重要です。
  • 相続開始後3年10ヶ月以内の売却で、「相続税額を取得費に加算できる特例」を検討できます。
  • 特例の適用判断と正確な税務処理のため、相続専門の税理士に必ず早期に相談しましょう。