コラム

配偶者の税額軽減を使うとどうなる?相続税ゼロの安心感とその先にある落とし穴

こんにちは!
大阪の税理士 グロースリンク税理士法人大阪オフィスです。

「夫が亡くなったとき、妻の相続税はどのくらいかかるのだろう?」
これは、相続を経験したご家族からよく寄せられる質問のひとつです。
実際、相続税の計算において最も効果が大きい特例ともいえるのが「配偶者の税額軽減」です。

この制度を活用すれば、相続税がまったくかからないケースも珍しくありません。
しかし一方で、「すべてを配偶者に相続させれば安心」という考え方には注意が必要です。
将来の二次相続で、想定以上の相続税負担につながるケースもあります。

今回は、配偶者の税額軽減の基本から注意点、対策までをわかりやすくお話します。

配偶者の税額軽減とは?法定相続分との関係

配偶者の税額軽減は、亡くなった方の財産を受け取る配偶者(夫・妻)について、次のどちらか高い方までは相続税をかけません、という制度です。

自宅、預金、株式など財産の種類は関係なく、この範囲内であれば、配偶者の相続税はゼロになることもあります。
背景にある考え方はシンプルで、「残された配偶者が、住む家や生活資金を確保できるようにする」という生活保障の発想です。
つまり、相続税を払うために今すぐ家を手放さないといけないという状況にならないように備えるための仕組みとなっています。

「使えば安心」ではない?よくある誤解と落とし穴

とても便利な制度ですが、実務ではいくつか注意すべきポイントがあります。
特に次の5点は、将来の税負担や手続きトラブルにつながりやすい部分です。

1.申告しないと使えない(=自動的に0円にはならない)

配偶者の税額軽減を適用するには、原則として相続税の申告期限(相続開始から10か月以内)までに申告書を提出する必要があります。
期限後申告・修正申告でも一定の範囲では適用が認められる余地はありますが、手続きが複雑になりやすく、税務調査で争点になることもあるため「あとでまとめてやればいい」は危険です。

2.未分割のままだとフルに使えない場合がある

相続人同士で話し合いがまとまらず、遺産の分け方(遺産分割協議)が決まっていない状態=未分割のまま申告期限を迎えるケースもよくあります。
この場合、とりあえず法定相続分で計算する「仮の申告」はできますが、後日きちんと分け方が決まったら「更正の請求」等で最終の軽減額を反映し直す必要があります。
放置すると本来払わなくてよかった税金を払いっぱなしになることもあるので注意です。

3.配偶者が多く取りすぎると、次の相続(いわゆる二次相続)が重くなる

今回の相続では奥さまの税金が0円でも、その財産は最終的にお子さまに引き継がれます。つまり「夫→妻」の相続で全部妻名義にしてしまうと、「妻→子」のときに一気に大きな財産に課税され、結果的にトータルの税金が高くなることがあります。
実務では、一次相続(今回)と二次相続(将来)の2回分を並べて試算し、「どこまで妻に持ってきて、どこから子に移しておくか」を数字で確認するのが基本です。
ここを感覚で決めると後悔しやすいポイントです。

4.婚姻期間や事実婚は関係ある?

配偶者の税額軽減は「法律上の配偶者」が対象です。
長年一緒に暮らしていても籍を入れていない、いわゆる事実婚・内縁関係では適用できません。
逆に、婚姻期間が短いからといって一律に制限されることは基本的にありません。

5.相続放棄したら適用できない

相続放棄をするとその人は最初から相続人でなかった扱いになるので、そもそも財産を引き継がず、配偶者の税額軽減も使えません。
借入・連帯保証・事業債務がある場合は、放棄の前に必ず全体像を確認する必要があります。

具体的にどんな進め方がベストか

配偶者の税額軽減を正しく使うには、次のステップで考えるとスムーズです。

①相続財産の棚卸し
 現金・預金・証券・不動産・生命保険・退職金・借入金などを一覧にして、相続税評価額で並べる

②一次相続と二次相続の2ケース試算
 「配偶者が多く取る案」「子どもに一部渡す案」を比較し、トータルの税額を把握する

③分け方(遺産分割協議)の方向性を固める
 特に自宅・事業用資産は誰が持つと将来困らないかを確認

④10か月以内に相続税申告
 未分割の場合は仮申告+後日の手続きもセットでスケジュール管理

⑤名義変更・預金引き出し・不動産登記などの実務処理
 「名義は妻、実際の管理は子」にならないように、管理実態も揃えておく

ここまでやっておくと、「払わなくていい税金を払ってしまった」「あとから修正申告でバタバタ」というリスクをかなり抑えられるでしょう。

まとめ:相続全体の設計が、将来の安心につながる

配偶者の税額軽減は非常にパワフルな制度ですが、その効果は“一時的”なものでもあります。
配偶者が高齢であれば、数年後にすぐ二次相続が発生する可能性もあるため、「今の税金がゼロだから安心」とは言い切れません。

そのためにも、以下のような視点をもって相続を計画することが重要です。

  • 相続を一次・二次の両面からトータルで設計する
  • 他の制度も含めた最適な組み合わせを検討する
  • 相続税申告のタイミングと手続きを把握しておく

相続は一生に何度も経験することではありません。
だからこそ、制度を知っているかどうかで、将来の安心感や納税負担が大きく変わってきますので、できるだけ早い段階で専門家と一緒に進めておくことをおすすめします。

迷った時は、大阪・梅田の税理士 グロースリンク税理士法人へご相談ください!

このコラムのまとめ

  • 「配偶者の税額軽減」は、1億6,000万円または法定相続分までは配偶者の相続税を0円にできる強い特例。
  • 申告期限・未分割・二次相続の重さ・相続放棄など、実務上の落とし穴も多い。
  • 「全部配偶者へ」ではなく、家族全体での最適バランスを数字で確認することが大切。