コラム

会計事務所が企業のM&Aを支援する際のメリットとデメリット

会計事務所が企業のM&A(合併・買収)を支援する際のメリットとデメリットについて解説します。

メリット

  1. 財務デューデリジェンスの専門知識
    会計事務所は、企業の財務デューデリジェンスを行う上で不可欠な知識と経験を有しています。M&Aでは、対象企業の財務状態、税務リスク、債務超過の有無、キャッシュフローの分析が重要です。会計事務所がこれらの検証を行うことで、買収企業が潜在的なリスクを理解し、適切な買収価格を決定できます。また、問題のある会計処理やリスクのある契約を早期に発見することが可能です。
  2. 税務戦略のアドバイス
    M&Aにおいて税務戦略は非常に重要です。会計事務所は、買収後の税務効率化や、適用可能な税制優遇措置(例えば、事業再編税制や連結納税制度)を活用することで、税務リスクの最小化を支援します。企業のM&Aにおいて、適切な税務対策が行われていない場合、大きな税負担を強いられる可能性がありますが、会計事務所はこれを防ぐ役割を果たします。
  3. 価値評価とバリュエーション
    会計事務所は、対象企業の適正な企業価値評価(バリュエーション)を行います。企業買収に際して、買い手側が支払う対価と実際の企業価値に乖離があると、過剰な支払い(オーバーペイ)が発生し、買収後の収益性が損なわれるリスクがあります。会計事務所は、企業価値の適正な算定を行い、過大評価や過小評価を防ぐことで、買い手にとって有利な条件を引き出す支援を行います。
  4. クロージングプロセスの支援
    M&Aのクロージングには、財務報告や合意書の作成、契約条項の確認、資金調達に関する相談が含まれます。これらは非常に複雑で、法務や税務の知識も要求されます。会計事務所はクロージングプロセスの全体を管理し、適切な手続きをサポートすることで、M&Aのスムーズな成立を確保します。
  5. ポストM&A統合のサポート
    M&A後の企業統合(PMI:Post-Merger Integration)においても、会計事務所は役立ちます。買収先企業の財務システムや経理制度、内部統制を買い手企業の基準に合わせて統合する必要があります。会計事務所はこれらのプロセスを管理し、業務の統合や効率化を支援します。
  6. コンプライアンスの遵守
    M&Aに関しては、会計・税務に加えて、労務や規制当局の要求に対するコンプライアンスも重要です。会計事務所は、法令遵守の視点から、買収手続きが適切に行われているかを確認し、リスクを未然に防ぎます。特に、グローバル企業間のM&Aでは、各国の税制や規制に精通した専門家が必要となり、会計事務所のネットワークを活用できる点がメリットです。
  7. 買収・売却双方に対する戦略的アドバイス
    買い手企業に対しては、対象企業の買収後のシナジー効果を最大限に引き出すための戦略をアドバイスする一方で、売り手企業に対しても、企業の価値を最大化するための事前準備や、売却交渉において有利な条件を引き出すための戦略を提供します。

デメリット

  1. コスト負担
    会計事務所によるM&A支援サービスは高度な専門知識を要するため、費用が高額になることが多いです。特に、大手の会計事務所に依頼する場合、そのコストは中小企業にとって大きな負担になる可能性があります。費用対効果を十分に見極めた上での依頼が必要です。
  2. 会計事務所の規模による対応の限界
    会計事務所の規模や専門性により、M&Aのスケールや業界特有の知識に対応できないケースがあります。特に中小規模の会計事務所では、国際的なM&Aや特殊な業界に対応するノウハウが不足していることもあるため、選定時には慎重な判断が必要です。
  3. 時間のかかるプロセス
    会計事務所のM&A支援には、精緻な分析やデューデリジェンス、契約書の作成など多くのプロセスが含まれます。これらには時間がかかるため、M&Aを迅速に進めたい場合には、スピード感に欠ける可能性があります。特に、大手会計事務所では複数のクライアントを同時に対応するため、リソースの分配によって時間がかかることがあります。
  4. 情報漏洩リスク
    M&Aプロセスは極秘で進められるべきですが、多くの関係者が関与するため、情報漏洩のリスクが高まります。会計事務所が関与する場合、情報が外部に流出するリスクがゼロではないため、機密保持契約を厳重に締結し、徹底したリスク管理が必要です。
  5. M&A後の統合失敗リスク
    会計事務所はM&A後の統合支援も行いますが、完全な統合が成功するとは限りません。財務統合がうまくいかず、企業のパフォーマンスが低下するリスクや、企業文化の違いによる社員の不満が生じることがあります。これにより、買収企業の期待する成果が得られない場合もあり、これはM&A全体の失敗につながるリスクです。
  6. 買収価格の決定における誤判断
    会計事務所が企業価値評価を行う際、全てのリスクや将来の収益を正確に予測できるわけではありません。市場の変動や予測不能な外部要因によって、結果的に買収価格が不適切であったと判断されるケースがあります。これにより、買い手企業は損失を被る可能性があります。
  7. 利益相反の可能性
    M&Aにおいて、会計事務所が買い手企業と売り手企業の双方に関与する場合、利益相反が生じる可能性があります。例えば、同じ会計事務所が買い手側と売り手側双方のデューデリジェンスやバリュエーションを担当する場合、公正性が疑われるリスクが発生します。このため、利益相反の防止策を講じる必要があります。

まとめ

会計事務所が企業のM&Aを支援することには多くのメリットがあり、特に財務デューデリジェンスや税務戦略、企業価値評価において重要な役割を果たします。しかし、コスト負担や情報漏洩のリスク、統合失敗の可能性など、いくつかのデメリットも存在します。M&Aの成功を左右する要因として、信頼できる会計事務所を選び、適切なリスク管理を行うことが重要です。